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通常の根管治療で歯根破折に対応した症例

大臼歯の歯根破折歯を再植接着治療を用いずに保存した症例です。

 



 歯根破折のため、いくつもの歯科医院で抜歯してインプラントを勧められた患者さんです。痛みなどの自覚症状を感じておらず、日常生活で不便していない、とのことでした。遠心根に破折線が確認でき、一般的な診断では保存不可能で間違いありません。さらに臨在歯は補綴されておらず、ブリッジでは切削量が多いため歯冠形成に躊躇してしまいます。そのため、第一選択はインプラントとなります。

 


 本人の保存への強い希望があったため、コンポジットレジンで隔壁を作り、根管治療を施しました。根管内には想定よりも感染が進んでおらず、根尖付近には破折が及んでいない可能性が考えられます。メーターが正常に反応したため、この時点で保存の見込みが高いと考えました。経験則になりますが、正常なメーター反応は根管内からの漏洩が少ないことが多く、歯根破折であっても成功率が高い傾向にあります。

 ほとんどの歯科治療に通じることですが、封鎖できるかどうかが重要になります。封鎖を確立できれば大概の歯冠修復や歯冠補綴は成功します。根管充填後のデンタルです。

 


 歯根破折歯を保存した後、1カ月程度は咬合痛が出現することが多いです。そのため、咬合力をかけたときに疼痛の出現がないか、コアにレジンを乗せて確認を行いました。この工程に関しては、患者さんの通院状況で判断しています。遠方から来院の方は支台築造と同時にダイレクトクラウンで歯冠補綴まで進めてしまいます。術前に歯冠形態がなかったため、インジェクションモールドを作成するためにワックスアップしました。

 


 インジェクションモールドを応用して、ダイレクトクラウンで歯冠形態を再現しました。あらかじめ隣接面を研磨したうえで、射出成型を応用しております。これにより、インジェクションモールドテクニックの欠点である「研磨できない部位」と「バリなどの成形不良」を克服できます。

 


 約6か月後の経過観察です。治療から1度も痛みや腫れが出ていないそうで安心しました。デンタルエックス線画像でダイレクトクラウン遠心隅角付近に気泡の混入が認められますが、マージンラインには接触しておらず、クラウン内部にとどまっているため問題ありません。コンポジットレジンで成形しているため、気泡がトラブルにつながる場合は即日で修正可能です。

 

 今回のケースで思ったことが、保存治療で有効活用できるはずのマイクロスコープが抜歯診断器として機能してしまったことです。本症例の患者さんは抜歯したくない思いでマイクロスコープを導入している歯科医院を探しまわったそうです。皮肉にもマイクロスコープで見ると歯根破折がくっきり見えるため、根管治療されることなく抜歯と言われ続けてきました。

 確かに歯根破折していますが、根管内の状況は深刻ではなく、メーターも正常に反応していました。おそらくマイクロスコープを使っていない先生だったら、歯根破折に気づくことなく処置を終えていた可能性が高いです。

 

 情報は多ければ多いほどいいわけではありません。情報が多すぎるために、かえって人間に備わる治癒能力の可能性を奪ってしまうこともあるのです。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。