高齢者へのコンポジットレジン矯正

 上顎前歯部の軽度の歯列不正に対して、矯正をしないでダイレクトボンディングで審美性を改善できた症例です。


 遠方から来院された60代女性の方です。前歯の見た目の改善を希望され来院されました。多量の歯石が付着していたため、前処置としてスケーリング・PMTCを施術しています。本人の尊厳を守るため、クリーニング後の写真を掲載します。


右上1番は口蓋側に倒れこむように捻転していることが確認できます。左上1番も軽度ですが、捻転しております。以前の歯科医院では「矯正をして、前歯を全て削ってジルコニアで治療しないと見た目を改善できない」と説明を受けたそうです。費用が150万円を超える高額治療となり、矯正をしないで、なるべく削らないで治療したい希望があり、当院まで片道4時間をかけて来院されました。遠方から大変恐縮に思います。

 歯石の付着量が想定以上であり、アポイント時間が迫る中、まずは本人がもっとも気にされていた右上1番から施術することとしました。写真は不良充填物の除去、軟化象牙質の除去後の写真です。

 


 充填後の写真です。近心正中部の窩洞から唇側面全体を覆うように、ラミネートベニヤのように仕上げました。右上1番は近心に折れ込むように捻転していたため、ラミネートベニヤ状に成形することで、矯正をすることなく審美性を改善することができました。60代の女性であり、加えて中程度の歯周疾患を患っているため、安易な矯正治療は悲惨な歯槽骨吸収を招く恐れがあります。高齢の女性の場合、骨が硬くて脆く、回復力が著しく劣っていることが多いためです。私は高齢の方への矯正治療は第一選択とすべきではないと思います。

 


 1年後に再来院されました。「前の治療が良かったので、他の前歯も治療してほしい」と希望されました。歯肉レベルがかなり改善されており、歯科医院での口腔内ケアの重要性を改めて認識しました。前歯1本がきれいになると他の歯もきれいにしたくなる方が多いです。

 


 「もっと白くしてほしい」と希望があったため、前回処置した右上1番も含めて、前歯部3本を同時処置しました。セラミックやジルコニアなどで修復すると色調を変更できず、全て削って再処置となります。その点ダイレクトボンディングなら最小限の介入で色調補正などの大掛かりな変更も可能です。窩洞形成後の写真です。

 


 術後の写真です。白浮きしないギリギリの明るさで仕上げました。切削量が少なく、歯冠の成形に制限があるため、ここが限界点でした。唇側部分のボリュームが多くなったため、解剖学的に仕上げると出っ歯のような見た目になってしまいます。そこで全体的に丸みを帯びた、はっきりしない形で仕上げることで、目の錯覚でボリュームダウンして出っ歯感を軽減できます。コンポジットレジン矯正と言っても過言ではないでしょう。

 


 約6か月後にクリーニングと経過観察を希望され来院されました。経過良好で本人も審美的にとても気に入ってくれたようでうれしく思います。ジーシー社のコンポジットレジンを使用したため、セルフシャイニング効果で滑沢性が増しているように見えます。

 


 スケーリング・PMTC後の写真です。経過観察含めて3回しか来院していません。加えて予算も150万円から10分の1程度にまで激減しました。ダイレクトボンディングは即日で仕上げることが可能であり、さらに費用を抑えて削る量も少なく治療できます。その応用範囲の裾野は広大だと実感しております。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。