ダイレクトボンディングによって最小限の歯質切削量で充分な審美的改善を図ることができた2年経過症例です。
前歯を何度も治療しているのに、すぐに着色してしまう。治療した先生から「CR充填だとすぐ着色するから、セラミックを入れないときれいにならない」と言われたため、当医院に来院されました。充填物の辺縁着色が酷く、不適切な接着処理と研磨不良が疑われました。
まずは本人の気になる部位からCR充填にて施術しました。充填が進むうちに本人の意識に変化が生じてきました。当初は着色部分を白くしたい希望だけだったのですが、12や21の歯冠形態を気にされるようになりました。審美治療ではよくある現象で、見た目が改善されたことで、以前は気にならなかったことに気づきやすくなります。
ダイレクトボンディングで12の歯冠形態を修正することとしました。
ラミネートベニヤをダイレクトボンディングで直接成形しました。本症例において、12はやや口蓋側に位置しており、暗く感じやすいため、彩度を1段階落としています。明度は変えていません。
彩度の要素を取り除く加工をしました。明度が適合していることが確認できると思います。明度が適合していれば肉眼的な色調が合います。多くの先生がA2とかA3等の彩度を気にしますが、明度が重要です。明度はオペークで決まります。彩度はおまけのようなもので、今回のケースのように錯覚を使って前後の位置関係をカモフラージュする場合などに使っています。
続いて正中部を改善する治療に移ります。11と21は私が唇側面を充填処置しているのですが、充填物ごと一層削合しております。一般的なラミネートベニヤに比べて圧倒的に削合量を減少させることができます。
ラミネートベニヤをダイレクトボンディングで直接成形しました。本症例では充填用CRにて直接成形しましたが、インジェクションモールドでの射出成形を応用することで、短時間で形態付与することが可能です。
ダイレクトボンディングの成形作業は技術的な難易度が高いので施術者を選びますが、インジェクションモールドは誰でもある程度の成形を行うことが可能です。
2年10カ月後の経過観察です。目立つ着色がほとんど確認できないことから、本人の生活習慣が着色の原因ではなく、術者側の充填操作に問題があったことが分かります。患者さんの責任にすることは簡単です。食生活やブラッシングも大切ですが、適切に充填することで清掃性を大幅に改善できます。
・注意事項
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。