終わらない根管治療の原因

根管治療を適切に施術し、ストリップパーフォレーションに対応した1年経過の症例です。オーバーレイにて残存歯質を最大限温存した状態で歯冠修復しております。

 


「セラミックを入れたばかりの歯が痛くなってしまい、近所の歯科に通院し始めたが何度も通っているのに良くならなくて困っている。歯茎も痛くなってしまった。」とのことで当医院に来院されました。やや自発痛を認め、打診痛に反応がありました。ポケットは2-3mmであったが、口蓋側中央のプロービング時に疼痛を訴えられました。前医はベースセメントで仮封されており、それなりに凝った根管治療を意識しているようです。

 


仮封材の除去後の写真です。マイクロスコープで見てみると、根管孔の明示が不完全であることが確認できました。髄角を根管と勘違いしている初歩的なミスです。超音波チップで慎重に根管を探ります。

 


 天蓋が残存しており、適切に根管孔明示ができていないことが分かります。前医は頬側の髄角から根管治療をしていたようですが、これでは適切に抜髄できるわけもなく、長期間の疼痛を引き起こしてしまったようです。さらに口蓋側の根管を発見できず、ズルズルと削り続け、口蓋側の歯頸部あたりでストリップパーフォレーションしている状態でした。ポケットと交通するパーフォレーションは非常に厄介なので、これ以上切削していなくて良かったです。

 患者さんはピンポイントでストリップパーフォレーションの部位が痛いことを訴えられていました。患者さんの話には必ず臨床上のヒントが隠れています。

 


 根管孔の明示が終わりました。かなり深い位置に髄床底があったため、難易度はやや高めです。ですが、ちゃんと見て治療すればなんら問題ありません。メーターばかり見て治療するから手探りの根管治療になってしまうのです。

 


 ニッケルチタンファイルで根管形成を行い、適切に洗浄しました。もちろんラバーダムは必須です。根管洗浄のときにラバーダムがあると、薬液が咽頭方向へ流れてしまう危険性がないため、安心して洗浄できます。

 


 アポイント2回で根管治療を終了させました。仮封材について、十分な厚みを確保できる場合はキャビトンで十分だと考えています。

 


 ファイバーコアで支台築造を行いました。ストリップパーフォレーション部位について、穿孔していなかったためコンポジットレジンで補強しました。打診痛が残存していたため、コンポジットレジンにてバイトさせて日常生活で問題ないか確認しました。残髄期間が長いと疼痛を引きずるので、自覚症状のコントロールが厄介です。

 


 疼痛の軽減を確認できたため、歯冠修復に移ります。頬側と舌側に健全エナメル質が十分残っているので、最大限温存しました。

 


 インジェクションモールドを使ったオーバーレイで歯冠修復をして終了です。前医では8回くらい根管治療で通院したそうですが、当院では4回の通院で完了できました。

 


 約1年経過時の写真です。問題なく機能しており、疼痛などの自覚症状も消失しました。

 

 歯内療法については様々な理論やドグマの類まで存在します。十人十色と言っても過言でないほど、先生によって治療方法や手技が異なります。細かい違いを考えるとキリがないのですが、根管治療は「見る」ことで変わると考えています。

 多くの先生がブラインドタッチで根管長測定器を凝視して治療しています。そのため、思い込みで治療することになり、今回のケースのように髄角を根管孔と間違えたり、根管を見逃したりすることにつながります。見ないで治療するから感染を取り残して、症状が消失しない。だから何度も何度も根管治療で通院することになり、取り残した感染物質をホルマリン系の毒性の強い薬剤で腐食させるような治療をすることになるのです。破折ファイルもやみくもに除去しようとするから取れないのであって、見て取ればいいだけです。

根管治療は「見る」ことで劇的に変わります。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。