ダイレクトボンディングを応用した直接修復のラミネートベニヤを用いて、反対咬合の審美性を矯正しないで改善した症例です。今回の症例は当医院のアポイントの関係上2日に分けましたが、わずか1日で、その場で治療することも可能です。
ついにこの日が来たか。本症例は私の父が施術した症例です。私のダイレクトクラウンやダイレクトブリッジの礎となった治療方法です。30年くらい前に治療したそうです。左上の前歯がよくとれるようになり、見た目や臭いが気になるため、やり直しを希望されました。
もともと反対咬合だったが、唇側にCRを盛り上げて被蓋関係を改善したようです。右上1番のう蝕が進行しており、加えてCRの著しい劣化が認められます。治療当時は接着の概念がなく、金属合着の全盛期です。そのような時代背景のなか、現在に通じる接着修復治療を審美領域に応用したことに、改めて感服します。この治療を見ていなかったら今の私の治療は存在しなかったことでしょう。
修復物の除去後の写真です。反対咬合であることが確認できます。CRの劣化はかなり進んでいましたが、う蝕の進行はほとんど認められませんでした。当時のCRであっても接着治療は生体に優しいことを実感します。
その場でラミネートベニヤを直接成型しました。インジェクションモールドは使用しておりません。あらかじめワックスアップしてラボでモールドを作っておけば、より審美的に仕上げることができると思います。今回は通院できないため、即日で仕上げました。
続いて左上1番と右上1番の近心のみ処置を進めました。根管治療が必要ですが、通院できないため審美を優先して仕上げることとしました。間接修復ではクラウンの再製作になってしまうため、必ず根管治療をしなければなりません。しかし、ダイレクトクラウンは口蓋側にアクセスホールを形成して根管治療が可能であるので、最初に補綴を完了させることが可能です。
インジェクションモールドなしで仕上げました。時間がかかりますが、即日でここまで治療できます。
右上1番の遠心カリエスと左上1番の根管治療は別日で進めることを約束しております。3時間くらいお時間を頂きましたが、必要十分な審美性を即日で確保できたと思います。
続いて左上3番の処置を進めました。反対咬合です。左上2番と同様、う蝕の進行は緩慢でした。
左上3番も直接成型しました。30年前の接着修復が機能していたという証拠があるので、この治療で問題ありません。論より証拠です。学術的に間違っていても、臨床では正しいことはかなり多いです。
これが2代目の治療です。次の時代へ世代交代です。
矯正しなくても反対咬合を治療することができます。本症例の患者さんは70歳を超えており、高齢の矯正治療にはリスクが多いうえに費用の問題があります。「この歳になって矯正はちょっと・・・」と思う患者さんって少なくないです。そういった方でも即日で見た目を改善でき、費用と期間がかからず、矯正治療に伴うリスクなしに審美性を改善できます。
この治療の後にスタッフが「この治療で人生が変わる人って多いと思います」と言っていました。矯正したくないけど、実は気にしている人の人生を、たかがCRが変えてくれるかもしれません。
研修医でもできる、たかがCR、されどCR。物は使い方です。
親父がこの治療を思いついたのは「患者さんに良くなってもらいたい」という思いがあったからこそ発想できたのです。今の医療は劇的に進歩していますが、ガイドラインや規定、規則に従い過ぎている感があります。
そこに患者さんの思いはありません。規則ってだけです。
昭和の医療はいい意味で人間味がありました。学術やガイドライン以前に、目の前の人の役に立とうという思いが臨床に変革を与える原動力となるのです。
・注意事項
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