高額のメタルボンドを入れた前歯の痛みと違和感が治らず、意を決して外したところ歯根破折が見つかりました。
即日でダイレクトクラウンを装着し、根管治療とファイバーポストで症状が緩和した症例です。
初診時に持続的な違和感とチクチクとした痛みを訴えられた患者さんです。施術した歯科医師からは「そのうち治るから様子をみましょう」といった説明を受けていたそうです。症状が緩和する気配がないため、不安に感じたようです。
私も高額の被せ物をすぐに撤去することに抵抗があったため、まずは歯周治療にて症状の緩和を試みました。しかし、歯周治療にて症状が緩和することがなく、患者さんからメタルボンド撤去の依頼がありました。
私も患者さんに我慢させてしまい申し訳ない気持ちでした。
メタルボンドやセラミックなどの高額な被せ物は安易に撤去することが難しいです。製作に高額なコストと時間を要するため、再製作に踏み切りにくいのです。たとえ問題があっても。
だから失敗が許されない。失敗が許されないから抜歯になってしまう。少しでも不安な要素があれば抜歯になり、計画的に時間をかけて進めることになります。
メタルボンドとメタルコアの除去後の写真です。残念なことに唇側歯根面に破折線を確認しました。
やはり違和感と疼痛は歯根破折が原因でした。
普通なら「残念ながら割れているので抜歯しましょう。インプラントがお勧めです」という流れになります。
ですが諦めるのはまだ早いです。
私は保存できる可能性があると判断しました。
まず、即日でダイレクトクラウンによる歯冠補綴を完了させました。
つまり仮歯の期間がないため、審美面を担保しつつ根管治療を勧めることができます。
このクラウンはラバーダムクランプを保持する役割もあります。
ダイレクトクラウン口蓋側にアクセスホールを形成して根管治療を施します。
最後にファイバーコア直接法による支台築造で終了です。
ファイバーコアによって根管内部から破折線部の接着補強を試みます。歯根破折が治るわけではないのですが、破折の広がりを抑えることができます。
約1年後の経過観察です。
症状が緩和し違和感や疼痛も感じていない、とのことでほっとしました。
今後も良好に経過してほしいです。
本症例のように前歯部にセラミックやジルコニアなどの高額治療後の歯根破折が体感的に多いです。
私は硬すぎることが原因で歯根破折を引き起こしていると考えています。
被せ物が硬くて剛健だと、割れないし摩耗しにくいです。
特にジルコニアは天然歯が破損したり摩耗する力であっても壊れる気配すら感じません。
その強すぎる力が歯根や対合歯に押し付けられるのです。
言い換えれば「被せ物を守るために歯根や対合歯が壊れる」のです。
私なら被せ物が壊れてほしいと考えます。被せ物ならまた作り直せます。
しかし、破折した歯根や摩耗した対合歯は元に戻りません。
私の第一選択とする材料である「コンポジットレジン」は摩耗するし割れたり欠けることがあります。
ですが、コンポジットレジンが壊れることで歯根や対合歯を守れるのです。しかも壊れても容易に修理可能です。
小さなトラブルで大きなトラブルを防ぐのです。
・注意事項
症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。
無断複写・転載は一切認めておりません。