ダイレクトボンディング前歯の6年経過

 ダイレクトボンディングで上顎前歯部を修復した症例の6年経過観察です。CRの長期経過は予後が悪いと考えられておりますが、適切な治療を施すことで問題なく良好に経過することができます。

 


 通院先で前歯の色が気になることを話したところ、40万円以上のメタルボンドでの治療を進められたため躊躇していたそうです。

 


 これだけ健全歯質が残っていれば、クラウンにするのはもったいないです。低侵襲であり施術費用を抑えることができるダイレクトボンディングにメリットがあります。

 


 本人の希望で気になる歯から治療を進めました。鼻呼吸が苦手なので、本人の希望でラバーダムを使用しませんでした。上顎前歯ではラバーダムを装着すると全体を俯瞰することが難しくなるケースがあります。上顎前歯の充填に限り、ラバーダムの使用はケースバイケースです。

 


 この時期の私は削らないことを徹底していたため、遊離エナメルをガッツリ残しています。現在の窩洞形成は遊離エナメルをしっかりと処理しています。この形成で充填できたのはGC社のカローレのおかげでしょう。デュポン社の超低重合収縮モノマーがエナメルクラックを防止してくれたからこそ可能だった治療です。

 カローレは諸事情で販売中止になってしまったのが残念です。操作性の癖が強烈だったせいなのでしょうか。私は硬くてパッカブルに充填できる感じが良かったです。最近の流行は柔らかくて、ベタベタしているCRばかりなので…。このベタベタ感はフィラーの極小化によって発生した欠点です。光沢感は現在の球状ナノフィラーの方が短時間で光ります。

 


 CRの重合収縮を減らす方法として王道なのが、フィラー充填率を上げることです。ナノサイズのフィラーで充填率を上げれば重合収縮が大幅に抑えられますが、ダラダラでベトベトした操作性になってしまいます。

そこでモノマーレジンを見直したのがカローレです。CRモノマーの重合反応は縮合重合なので、どうしても重合後に収縮が生じてしまいます。そこでモノマー分子量を大きくし長鎖にすることで、重合反応する部分を大幅に減らしたのがデュポン社のモノマーです。

 



 正中がずれているように見えますが、11がローテーションしているため、肉眼で見るとちょうどいい感じです。現在のCRはモノシェードでもかなりキレイに仕上がるため大幅な時間短縮になりました。グラディアダイレクトやカローレは何層ものレイヤリングが必要なので、今の2倍以上の時間が必要なので大変でした。技術の進歩に感謝します。

 


 モノシェードになって重合収縮によるエナメルクラックが増えてしまいました。短時間で充填できる反面、1度の充填量が多くなるため収縮量も多くなるためです。だから現在の窩洞形成は遊離エナメルをしっかり除去し、幅広ラウンドベベルを付与して、Cファクターを減らすために窩洞の単純化を図ります。

 積層充填も非常に有効なのですが、操作が増えれば増えるほどコンタミなどのエラーが発生するため、やり過ぎには注意した方が良いです。

 


 終了後の写真です。通院回数は3回に分けました。大きく削らないで費用も大幅に抑えることができたため、患者さんは大変喜ばれておりました。

 


 あれから6年が経過しました。マージン部にやや着色を認める程度で、良好に経過しております。カローレはハイブリッドフィラーなので時間の経過とともに滑沢性が減衰しますが、光沢感も維持されているため安心しました。23歯頸部のアクティブなカリエスが気になりますが、患者さんにブラッシングを頑張ってもらい、進行停止することを見込みました。

 

 現在の歯科治療はセメントによる合着から、レジンによる接着に完全にシフトしました。CAD/CAM冠もジルコニアも接着とは切っても切れない関係です。CR充填は旧来からある基礎的な治療とみなされる傾向がありますが、接着修復のすべてが必要とされ、なおかつ接着の失敗が目に見えてわかります。接着の時代だからこそ、改めてCR充填を見直すことで、治療全体のボトムアップが可能だと思います。

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

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