保存に失敗した後、ダイレクトブリッジを装着した症例

 保存治療が奏功せず、残念なことに抜歯となってしまいました。抜歯後にダイレクトブリッジに変更したことで良好に経過している症例です。

 


歯肉の腫脹と疼痛を主訴に来院されました。デンタルより41遠心部の歯槽骨喪失とメタルコア先端部の透過像が気になります。

 


 残念ながら41根管壁の遠心部に広範囲のパーフォレーションを認めました。残存歯質も極端に少なく、歯槽骨の状態も不良です。通常の診断では間違いなく抜歯です。成功の見込みはかなり低いのですが、保存治療に踏み切りました。

 

 現在の補綴治療の大きな問題点は、治療終了後の大幅な形態修正が不可能であることです。例えば本症例の41を保存した場合、最終補綴物にクラウンを装着します。治療が失敗し抜歯せざる負えない状態になると非常に厄介です。

 保険治療では補綴物維持管理の問題から2年前後は再補綴できません。自費のクラウンでは高額費用の問題が発生します。例えばセラミックを装着した場合、10万円以上の費用が発生します。それが抜歯になって、ブリッジへの変更で30万円の追加費用が発生します。よって確実な治療を求めることになり、少しでも不安があれば、抜歯などの大掛かりで確実な治療になってしまいます。

 


 即日でダイレクトクラウンを装着して、審美性を確保しつつ根管治療を進めました。

パーフォレーション部分はMTAにて封鎖しました。

 

 私が積極的に保存治療に挑める理由は補綴を容易に変更できるからです。ダイレクトクラウンやダイレクトブリッジは治療終了後に修正・変更が容易です。そのため、ダメだったら抜歯してブリッジに変更することができます。だからダメもとであっても、躊躇なく保存に踏み切れます。従来の治療では考えられない柔軟性です。

 


 経過観察をしつつ、31、32の再治療を進めました。31,32とも最終補綴はダイレクトクラウンです。

 そして1年近く経過したときに、舌側に大きな腫脹と強い打診痛、2度の動揺も認められました。患者さんと相談の上、やむなく抜歯に変更となりました。力及ばず無念です…。


 抜歯後、即日でダイレクトブリッジを装着しました。

血液から被着面を保護するためにラバーダムは絶対必須です。抜歯窩への異物混入も防止できます。抜去歯を観察すると、かなり大きなパーフォレーションが確認できます。


 即日で補綴できることによって、仮歯の期間がなく、治療回数もわずか1回!自分で言うのも気が引けますが、驚異的な治療だと思います。患者さんも「もう歯が入った!」とびっくりされていました。


1年以上経過しました。今のところ問題なく経過しております。保存治療が失敗してしまい、治療回数が多くなってしまったことに申し訳なく思います。患者さんの理解があったからこそ、チャレンジすることができました。

 

今までの歯科治療には柔軟性がかけています。

学生時代も学会でも失敗は悪です。ですが、すべての治療が完璧で教科書通りではありません。

生身の人間は機械のようにみんな同じではないのです。

そこに同質性というか、完璧主義を無理やり当てはめている感があります。

根底には人間を咬合器として扱うナソロジーが影を落としているのでしょう。

 

私の勝手な考えですが、人間は「変化できる」ことが最大の特徴であると思います。

みんな違う、それぞれに個性があり多様でいい。分散しているから、環境の変化に柔軟に対応することができる。多様だから今日まで絶滅することなく、文明を発達させてきたのではないでしょうか。

 

柔よく剛を制す

 

硬くて融通の利かない補綴治療を再考する時が来たと確信しています。

 

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。