歯根破折歯を使ったダイレクトブリッジ

歯根破折歯を残し、ダイレクトブリッジの支台歯として2年以上問題なく経過した症例です。

自分の歯を残すことができただけでなく、その歯を有効活用してしまいました。

侵襲性が高く、高額なインプラントを回避することができました。


口の中のクリーニングを希望して来院されました。

クリーニングをしたい理由を伺うと

「左上が高頻度で腫れて膿が出るので、歯周病が悪化していると思う。だから歯石を取って治したい」

とおっしゃっていました。

「クリーニングしたい → スケーリング」では正しい問診ではありません。

患者さんの希望に

「なんでクリーニングしたいの?」

と謙虚な姿勢で傾聴することで、隠れている疾患が問診時点で見つかることがあります。

 

補綴済みの27番に、咬合面からアクセスして再根管治療を施術した形跡があります。

本来ならブリッジを撤去して、根管治療からやり直ししなければなりません。

そうなると、またブリッジを作り直さなければなりません。

 

装着されているのはメタルボンド・ブリッジなので、自由診療で高額だった可能性が高いです。

・・・撤去して、また20万円払ってください・・・。

抜歯なので、インプラントで80万円かかります・・・。

・・・言えない気持ちは分かりますが・・・。

 

こういう時にダイレクトブリッジだと、ためらいなく再治療できます。

簡単に修理できるので、医療者側も患者さん側も臆することなく再治療に進めます。

そもそも、治療後早期に再根管治療になったことが7年くらい1度もありませんので、ご安心ください。


残念ながら完全に割れています。普通なら、この時点で抜歯です。抜歯が正解です。

でも可能性が絶対に無いわけではありません。成功率は低いのですが、残せた場合のメリットが非常に大きいです。

一度抜歯したら、元には戻せません。後戻りできないのです。

患者さんの理解と協力が必須ですが、保存にチャレンジする価値があります。


失敗の可能性を同意いただき、保存治療を進めました。

温厚で理解のある患者さんの協力あっての治療です。本当に感謝しております。

根管治療後、ファイバーポスト併用でポストコアをビルドアップしました。


3ピースタイプのダイレクトブリッジを装着しました。

ダイレクトブリッジなら術後症状に柔軟に対応できます。

場当たり的な治療をしないで、その時の症状に的確に対応できます。

だから困難な症例にも臆することなく挑戦できます。

もちろん患者さんの協力あっての治療です。


1カ月経過観察時の写真です。普通に食事できているとのことで、一安心です。

 

もともとメタルボンド・ブリッジが装着されていたため、クリアランスに余裕がありました。

ダイレクトブリッジであっても十分な厚みを確保できる場合、ほとんど破断しません。

補綴のクリアランスは鉄則なのかもしれません。


2年経過しました。ノートラブルです。

このまま一生もってほしい。

患者さんに感謝を頂き大変恐縮ですし、私も嬉しいです。

 

「柔よく剛を制す」

最近はインプラントやジルコニアなどの超硬い治療が主流ですが、私は硬すぎる治療には疑問を持っています。

硬い治療のトラブルは対応が困難なことが多いからです。場合によっては治療不可能なこともあります。

 

ファイバーポストコアやダイレクトブリッジは柔らかい治療です。

その柔軟性が、歯根破折などの困難を優しく受け止めてくれているのかもしれません。

・注意事項

症例写真は患者様の了解を得たうえで掲載しております。

無断複写・転載は一切認めておりません。